『銀河マリーゴールドシネマ』【和書定価新本】
¥3,300 税込
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劇場の暗闇で映画を観るという日常の儀式がどれだけ私たちの心を救っていたか、どれだけ心を耕してくれていたか。この小説を読んでいて、それを思い出しました。
著者の荒河踊さんは、20代から映画館でアルバイトを始め、その後25年にわたって都内の名画座で支配人を務めてきました。映画館という場に集う様々なお客様、日々の仕事、数えきれないほどの上映作品、そういったすべてを現場で捉えてきたからこそ、この温かな手触りのある世界を描けたのだろう。そう感じます。
物語は入れ子のようになっていて、私たちはこの一冊で7本の映画を主人公と一緒に観ることになります。メイン・ストーリーは、なにか大きな喪失を抱えさまよう主人公とそれを温かくもてなし導く映画館館長の交流。謎めいたひと気のない映画館で、館長は日々、地下のフィルム庫から選んだ作品を上映してくれます。そのひとつひとつを、荒河さんはまるで実在する作品かと思うほど作り込みます。どの作品にも挿画を担当したMao Ishitsukaさんによるポスターがあり、監督、出演者、惹句まで描きこまれています。
ポスターが掲げられ、「映画説明者」による作品紹介があって、上映が始まります。スピーディに展開するストーリーに引き込まれ、終演。私たちは空白に戻ったスクリーンを見つめて余韻を感じます。上映される作品たちのなんとも言えない「B級」感が愛らしく、たまらなく懐かしい気持ちに。実際にありそう!もしかしてあの映画のオマージュかも?!と楽しめるディテールに、映画愛の深さを感じて唸ってしまいます。
多様な映画作品たちが織りなす星座、観客で溢れることもあれば誰もいなくなることもある映画館という空間、監督たちの孤独な苦悩、そういったものを愛情深く、でも距離をとって俯瞰する視点は、私も長く書店のレジ越しに見続けてきた風景に似ている気がして、とても共感します。
物語は宮沢賢治の寓話を思わせたり吉田篤弘の温かさを思わせたり、にわかに思弁SFを感じさせたりと、もしかすると荒削りといえる部分もあるかもしれません。でも、それが愛らしく感じます。自身が愛してきた映画館という小宇宙を、自分も「創りたい」という衝動に任せて作り上げてしまった、そのDIY精神が痛快です。
作中で主人公は100本の映画を観るのですが、巻末にはその100作品すべてのあらすじと監督、出演者、上映時間やフィルムの仕様まで一覧で掲げてあります。すべてのディテールを心から楽しみながら作り込んでいった様子が思い浮かび、その「オタク」ぶりに笑いが込み上げます。
とても個性的で愛らしい作品だと思います。ぜひ読んでみてください。
ーーー出版社の紹介文よりーーー
旅に出たぼくは 映画館の無い世界で 映画館と出会った
元映画館支配人が描く、ちょっと不思議でちょっと可笑しな理想の映画館
映画や映画館が存在しない世界で、不思議な力に導かれて古い〈映画館〉とめぐりあった少年のような青年が、孤独に映画館を守っている老館長と交流するうちに、映画の魅力を知り、いつしか映画を通して自分がこの世界に存在する理由に気付いていく。
館長が選んだ100作品の映画を観終わった時、主人公の青年は何を思うのか?
『銀河マリーゴールドシネマ』
荒河踊 著
ぶくぶっくす 発行
ISBN:9784991324000
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